フリー編集者の人生を見つめる日誌

〜生きることってどんなこと〜

道に人が倒れていたら通報すべきか

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今日、池袋駅に向かう途中、倒れている人を見つけた。時間は正午ごろ。

最近、仕事とは別に、取り組んでいるプロジェクト(社会人向けのアート福祉コースに通っている)があり、ボランティアをしている人へリサーチインタビューをした帰りだった。私の他に2名のメンバーがいて、話を聞いて心が満たされ、ホクホクとした気分の帰り道。

池袋の繁華街を抜けるころ、やよい軒の側溝に人が転がっていた。それもうつ伏せのような変な格好で。一瞬「えっ」と思ったが、それよりも先に中国人らしき中年女性が、ギョッとした顔で転がった人を見ながら電話をしている。私と目が合う。なんだかわからないけど互いに近づくことになり、女性のほうが先に口を開いた「この人顔真っ白。蒼白してるよね。ちょっとやばいかも。救急呼んだほうがいい」と言った。そして、呼んでね、お願いお願い、と言って、なぜか私に任務を託した。焦る手で110番を押す。

側溝に倒れていたのは、茶髪でストライプのシャツに黒のスラックスパンツを履いた推定30代の男性。ウエストポーチのようなバッグも転がっている。私はなんとなく、ボーイっぽいな、と思った。そして顔を覗き込むと横顔(と言っても目とかまでは見てない)が見えて、確かに白くて黄色い顔をしていた。肩というか背中も動いてないように見える。死んでるのかも、とも思った。

110番に電話をかけると、「事件ですか、事故ですか」と定型分が聞こえた。何度か救急車も警察も電話をしているので、初めてではないのだけれど、こんなときあまりうまく答えられず、「ひ、人が倒れてます!池袋です!」と伝えた。どの辺りですか?と言われたけれど、池袋に土地勘がなく、わからないなと思ってると、「GPSでは〜のあたりですが、合ってますか?」と言われた。便利な世の中になったのだ。すぐに駆けつけてくれることになり、私はそれまで少し待つことになった。立ち去ってもよかったみたいだけれど。

するとほどなくして警察官2人が歩いてやってきた。あ、救急車だと思ったんだけどな、と思った。警察官は軽やかに彼の元に近寄り、医療用のようなゴム手袋をはめ、「お兄さん! お兄さん!」とゆすった。見守る野次馬たちに緊張が走る……。

すると、「うわぁぁあああんんん」とその男は泣いた。

よかった、生きてた。警察官は「なんで泣いてるの! 何があったの」と聞いた。私たちは安堵してその場を立ち去った。警察官にはなんだかいいイメージがないけれど、今日こそは心の底から感謝した。たぶん側溝の彼は朝まで飲んでいたんだろう。普通の酔っ払いであることを願う。

ちなみに、私に救急車を呼んでと言ったあの中国人女性は、私が電話をするとするりとどこかへ消えた。このことを私の恋人に話すと、その女性、ノービザ(不法滞在)だったのかなぁと言った。でも彼女に強く言われなかったら、私は見て見ぬ振りをしてしまったかもしれない。どうせ酔っ払いだよね、と。

こういうとき、酔っ払いはだいたい酔っ払いらしく寝ていることが多いから、基本は無視してしまう。ただ、たしかに今日の男性は死んでるみたいな倒れ方だった。夜の街に慣れていそうだった中国人女性も、これは…と思ったに違いない。結果として生きていたからよかったけれど、普通どんなアクションを取るのがいいのだろう、と思って少し調べてみた。

私は救急車(119)を呼びたかったのに、間違えて警察(110)を呼んだけれど、どうやら110番通報でよかったらしい。ということは、交番勤務の警察官は毎日こんなことに対応しているんですね。大変な仕事だ。ほとんど福祉というか医療じゃん。

タイに数年、あとはカナダとアメリカに数ヶ月ずついた経験もあるけれど、道に酔っ払いが寝ているというのは日本以外で見たことがなかった。もし外国で寝ているとしたら、その人はおそらくホームレスとか、何かしらの問題を抱えている人。日本は平和なんだろうか。あの光景を見て、不思議と寺山修司の『田園に死す』を思い出した。男が変な格好で転がっていて、その周りには中国人の中年女性と私、さらには車から杖をついたお爺さんが出てきたり、通行人が足を止めたり、なんだか奇妙な空間だった。けどあの人が生きていてよかったし、通報してよかったのだと思う。泣いてたのは、なにがあったんだろうか。

(ちなみに写真は関係ありません。キャンプ場で寝ている男性です)