フリー編集者の人生を見つめる日誌

〜生きることってどんなこと〜

人間の相性の不思議

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元パートナーでアーティストのピートは、私に「もっと表現してほしい。前みたいに絵を描いたらいいじゃん。あの絵、僕の友達たちも好きだったよ」と言った。

多分彼は私にアーティストになってほしくて、でも私は現代アートをやっている彼と自分を比べてしまっていて、「私はクリエイターであって、アーティストじゃないから」といつも自分を卑下していた。彼も私がそんなことを言うもんだから、「ミホはアーティストじゃないから」というような調子だった。

別れる直前、彼はとても混乱してた。だって彼が(私がいるのに)好きになってしまった人は、超かっこいいバリバリのアーティストだったから。それもあって多分、「自分が彼女にこんなに惹かれてしまうのは、彼女がアーティストだからだ。ミホがアーティストじゃないのがいけないんだ」とか思ったのかな。極端な例だけど。それで決断前は、「もっと絵を描いてよ」とか「表現しなよ」「最近は(資本主義的な)仕事ばかり」「キャピタリズムクイーンだよ」とか言われていた。

私もその頃は、一連の不安神経症パニック障害とか)から復帰したばかりで、とにかく社会に必要とされることの方が嬉しかったし、自分の能力でお金を稼いでいることの方が価値があった。だって、フリーランスだし、お金は目に見えて自分の価値、能力の価値がわかりやすいから。もともと微々たる表現はしていたけれど、世に向けて大々的に発表するとかでなく、絵を描いたり、写真を撮ったり、詩を書いたりしてた。たまにいいね、と言ってくれる人がいたら、なんとなく小さく展示させてもらったりすることもあったけれど。けれど自分の表現というものは、仕事のなかにあるのだと思っていた。

そんな元パートナーと暮らしたほとんど最後の1ヵ月のことをzineにした。その頃はまだ別れるなんて思っていなくて、でもどこか噛み合わないこともあって、泣いた夜もあった。そのことも全部zineに書いた。それが自分のことを表現して、世の中に出す、丸裸になるという最初の一歩だった。そこから仕事への向き合い方も変わって、もっと自分の表現がしたいと思ったし、ピートがずっとやってきたこととか、周りのアーティストの友人たちがやってきたことがなんだったのか、初めて理解できた。

けれど、そのzineを出して3ヵ月後くらいに別れることになった。離婚届をちゃんと出したのはそれから約1年後とかになるんだけど。

でも1つ目のzineを出してから、zine作りにはまって、続けていくつか作った。けど1作目より納得のいくものは実はまだ作れていない…と思う。別れて、毎日泣いた。いまでも考えると泣いてしまう。彼を失ったことも辛いけれど、自分がうまくやれなかったことを後悔するようになった。当時は、これ以上自分から人を愛することはない、自分にできる精一杯の愛情を傾けている、だからきっと別れても後悔しないだろう、とか思っていたけれど、よくよく考えると、やっぱり自分にも非があったと思う。そのことを思うと辛い。

けどそんななかでも新しい恋人ができた。別れて半年くらいで新しい恋人がいる自分にも辟易するのだけれど、そういうタイミングだったのだから仕方ない。新しい恋人もやはりアーティストで、しかも元パートナーのよい友人だった。2人はタイプは違えど同じミュージシャンで、一緒に作品をつくったりもしていた。新しい恋人は私とピートの関係をよく理解していたし、一応いろんなことをひっくるめて一緒にいてくれている。

新しい恋人は「アートは生活だ」「アーティストは生活者だ」という人で、ピートの考え方と少し違う。「でも僕もまだピートくらいの若いときは、アートを崇高なものとして捉えてたし、アーティストである自分のこともそう思ってた」と言った。けれど30歳くらいで挫折を経験し、アートを崇高なものだと思うことをやめたのだそう。

そして新しい恋人は、私のことを「ミホちゃんはアーティストだから好きだ」と言ってくれる。彼と付き合ったからなのかよくわからないが、私はいまかなり精力的にいろんなことに取り組んでいる。1作目のzineは今さらになっていろんなフェアなどに呼んでもらえるようになったし、自分の小さなお店(みたいなもの)のオリジナルプロダクトを作ったりもした。最近はインスタグラムに書いていた言葉を拾って新しいzineを作ろうとしているし、他にもエッセイみたいなものを書いて出したいとも思っている。

そんなこと、つい1年前までは思いつきもしなかった。やろうと思えばやれるんだ、と思った。薄い透明の皮が私の周りにあって、それを破ったら外は広かった、みたいな感じ。

元パートナーは、私にアーティストになってほしかったけれど、私は彼の前ではアーティストになれず、新しい恋人の前でやっとアーティスト(と言えるかわからないけど)になれた。それって人と人との相性もあるのかなとも思う。でも人生はやっぱり皮肉だ。